
大人の絵本ブーム広がる――癒しと懐かしさを求めて、再びページをめくる理由
日本で「大人の絵本」ブームが静かに広がっている。子どもの頃に親しんだ世界観を、再び手に取る人々が増えているのだ。書店では、ベストセラーの棚に童話のリメイクや、新たに大人向けに書かれた絵本が並び、SNSでは「絵本時間」や「おとな絵本部」といったハッシュタグが人気を集めている。
「絵本は、短い物語と絵の力で心がほっとする」と話すのは、東京都内で働く30代の会社員。リモートワークで心が疲れたとき、偶然SNSで見た絵本を手に取ったという。「読むうちに自分の子どものころを思い出して、なんだか救われた気持ちになった」。
出版社によると、こうした読者層の拡大はここ数年で顕著だ。紀伊國屋書店や丸善では、売り場の一角に「大人のための絵本」コーナーを設ける店舗も増加。書店員によれば、「20代後半から50代まで幅広い年代の購入が多い」とのことだ。
特に、働く女性や在宅勤務を続けるビジネスパーソンのあいだで、絵本を「夜のリラクゼーション」として読む傾向が強まっているという。
この背景には、現代社会特有のストレスや孤独感があると専門家は分析する。心理カウンセラーの談話によれば、「絵本には“癒しの構造”がある」とのことだ。やさしい言葉づかい、明るい色彩、そして安心感のあるストーリー展開が、読む人の心を落ち着かせるという。
実際、心理療法の一環として絵本を活用するケースも増えており、教育現場や医療機関でも注目されている。
さらに、懐かしさが購買意欲を刺激している点も見逃せない。子どものころに読んだ名作が再出版され、手に取ることで「時間を超えて自分と再会する」感覚を味わう人も多い。出版社のデータによると、過去の名作絵本の復刻版や豪華装丁版は、ギフト需要でも好調だ。誕生日やクリスマスに、家族や友人へ贈る人が増えているという。
クリエイターの間でも、絵本は新たな自己表現の場となっている。詩人やイラストレーター、またSNS発の作家がコラボした作品が次々登場。「大人が読むための寓話」をテーマに、恋愛、喪失、自己再生などを描くストーリーが人気を呼んでいる。
中でも、人気絵本作家・ヨシタケシンスケ氏やヨーロッパの絵本作家による短編集は、若年層にも共感を広げている。
デジタル化が進む今、紙の質感やページをめくる動作に魅力を感じる人も少なくない。「スマホやニュースの情報で疲れた頭を、絵本の世界でリセットしたい」と語る読者の声も多く聞かれる。
絵本は、単なる懐かしさではなく、「心の休憩所」として再評価されているのだ。

